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百合推し下読みによる百合小説おすすめ本

百合小説紹介記事アイキャッチ 創作全般

百合要素を含む小説はあっても、百合と銘打っている本は、あまり多くない印象です。

このサイトに検索してやってくる人の中には、百合小説のおすすめ本を探している人もいるみたいなので、今回記事を書いてみました。

ところで、百合小説の賞レース結果をいくつか見ていると、2人の関係性を重視した作品が多い気がします。百合小説において恋愛以外の要素を不要に思う人は一定数いるので、そういうマーケットの事情を考慮したものが結果にも反映されているのかな? とは思います。

ただ、世界観やストーリ性ありきの百合を楽しみたい人もいると思うので、そういう人は、一般系のエンタメの中にある百合みを摂取した方が、今のところ楽しみやすいかもしれません。

今回は、百合小説を探している人に向けて、個人的なおすすめ百合本を紹介してみます。前半は一般的な百合、後半は殺伐百合を紹介してみました。

なお、紹介作品に一部、既婚者もの・TSものがあります。


百合小説と銘打っている本

『百合小説コレクションwiz』

百合と銘打っている本としては、個人的に、現在この本が一番おすすめです。収録作品はエンタメ感が強い印象。

短編集で、短編が8作収録されています。

イチオシの短編は、

  • 斜線堂有紀「選挙に絶対行きたくない家のソファーで食べて寝て映画観たい」

です。

この話は斬新な百合です。

百合とフェミニズムって切っても切れない部分がありますよね。

そういう問題って、重たくて、不謹慎に取り扱ってはいけないという暗黙の了解がある。

でも(というか、だから)、主人公はあんまりその問題に触れたくない(怠惰なので)。選挙にもいかない。逆に、主人公の恋人は社会変革への活動に熱心な子で、主人公にもその活動を強いてくる。それで二人はいつもケンカをしてしまう。

主人公だってマイノリティの当事者なんですね。でも、社会活動に参加するのはめんどい(怠惰なので)。

当事者だからって、なぜ社会問題とまともに向き合わないと不真面目だと思われるの、男女同士の恋愛と同じく、だらだらと怠惰に恋人と愛し合っていたいだけなのに、なんでこんな面倒なこと(選挙に行くか行かないか)で恋人と不和にならなくちゃいけないの? 

って、疑問に思う主人公像が新しい。

主人公のそういう、だらしなさとけだるい葛藤から、女女の恋愛の前に隠然と横たわる障壁を、逆説的に伝える手腕が秀逸な作品です。

  • 他の収録作でおすすめ:「エリアンタス・ロバートソン」「あの日、私たちはバスに乗った」

「エリアンタス・ロバートソン」は既婚者百合なので抵抗感がある人もいるかもですが、主人公の愛の狂気が、女による女のためのR-18文学賞でデビューした宮木あや子ならでは。情念の表現が段違いです。

この『百合小説コレクションwiz』の、他の本にない良い点は、収録作品の作者がそれぞれ、自分的おすすめ百合作品を上げているコーナーがあるところです。

そのため、本編を読んだ後も、百合世界が続いていく感じがして、一冊で非常にお得感があります。



なお、宮木さんのデビュー作の『花宵道中』も、一部百合っぽいシーンがあります(基本は男女恋愛なんですけど)。主人公の緑がお姉さんに「仕事」の手ほどきしてもらう場面とか。

「あの日、私たちはバスに乗った」は、不思議系の青春百合。

百合文芸小説コンテストの受賞作なので、やはり多数の作品から選ばれただけはある、と感じるクオリティです。百合文芸に応募するなら、読んで傾向を研究してみては。

・関連記事↓





『彼女。: 百合小説アンソロジー』

7作収録の短編集。

良くも悪くも印象に残る作品が多い感じ。

  • 個人的おすすめ収録作品:円居挽「上手くなるまで待って」・相沢沙呼「微笑の対価」

「上手くなるまで待って」は作家志望の女子と、先輩との交流が書かれています。作家志望の人あるあるが随所にちりばめられているので、創作勢は感情移入しやすいです。

化け物になってしまった先輩に引導を渡す、という、師弟愛要素もある。

また、

  • 後味の悪さが最高(褒め言葉)の作品:「馬鹿者の恋」

いわゆるざまぁなのですが、主人公がざまぁされるので、後味の悪さは折り紙つきです。

感情移入できないように、かなり性格悪く作られている主人公なのですが、主人公から幸せを奪ってく女も、なかなか性格が悪いので、主人公、ひょっとしてすごく可哀想じゃないか? と思えてきます。

「微笑の対価」もおすすめです。

これはいわゆる死体埋めもの。

この「微笑の対価」という作品が最後に配置されていることで、この本全体の価値が上がっている感じです。

百合ならではの不穏感、不安定さみたいなものが、本を閉じても長く残ります





零合

こちらは文芸誌です。どうも不定期刊行の様子。

創刊号を読んだ感想としては、ライト文芸というより、どっちかというともっと硬めで、純文寄りの作品が多め。ただ2号は長めのマンガの掲載、エンタメ寄り作品もあるので、変化の途上にある雑誌なのかなという印象。

百合についての思い入れがかなり熱い本です。

  • 創刊号の中でおすすめ作品は、「嘘n」

文芸誌・零合については、こちらの関連記事もよければどうぞ。



百合要素のある一般エンタメ文芸(殺伐百合)

殺伐百合で検索してこのサイトに来る人が結構いるみたいなので、殺伐百合要素のある作品を集めてみました。なお殺伐なので、糖度はほぼ皆無です。

『デンデラ』

映画化もされた、佐藤友哉の名作です。

ただ、設定が特殊かつ、展開が凄絶なのでかなり人を選ぶ。

恋愛ではなく友情なので、シスターフッド方面の百合かなという印象。


作品要約

主人公・カユの村では、六十歳になった者は、山へ棄てられるルール。

山で命つきると極楽浄土へいけるという話。カユも棄てられた。

寒さで生死の境をさまよったカユが目を開けると、そこには過去に山に棄てられて死んだはずの老婆たちがいた。

彼女たちは【デンデラ】という、棄てられた老婆のみからなる秘密のコミュニティを作って生き延びていた。

百合的な説明

ここでカユがふつうの婆さんなら、山に棄てられたのにもかかわらず、助かったことに安堵すると思うのですが、カユは思春期をこじらせた尖ったナイフみたいな性格。

極楽浄土に行きたかったのに勝手に助けられて生き恥をさらしているという怒りから、ことあるごとにコミュニティのメンバーを悪罵します。

この空気読まない感じのカユが、なんとなく稚くて、口が悪いのにかわいげがあります。

【デンデラ】では、思想の対立があり、権力闘争もあり、政治家がいて、先導者がいて、策士もいる。一人一人の想いがアツい。しかも全員老婆なのに喋り方がやけに緊張感があって硬派。かっこいい。

【デンデラ】メンバーが、自分たちを棄てた村の連中に復讐しようと企てている矢先、【デンデラ】に凶暴な山の怪物がやってきます。メンバーが老婆なので対抗手段がほとんどない、絶望的な戦いが始まります。

その上に疫病が蔓延し、【デンデラ】は壊滅状態に。

カユはこのコミュニティの連中に、ことあるごとに悪態をつきますが、最後はコミュニティの老婆たちの主義主張も理解し、山の怪物との戦いに赴く、という超絶ハードボイルドな展開。老婆たちの凄絶な生き様が鮮烈です。

この作品を百合と評価するかどうかは人それぞれかと思います。

佐藤さんの作品は、2024年2月になった百合文芸誌の「零合」の2号にも寄稿されているので、そちらもご興味があれば。

「零合」の2号の収録作は、1945年あたりの函館を舞台に、「決して二階へは上がってはいけない」不思議なお屋敷で働くことになった女の子の話です。こちらも、百合というかどうかは人それぞれ感があるのですが、サスペンス感が強くて、そういう要素が好きな人にはお勧め。

電子書籍のほうが圧倒的に安いので、電書版を貼っときます。




『シャングリ・ラ』

変な女を書くことに定評のある、池上永一の作品。

ご本人も雑誌のインタビューの中で、変な女を書いていきたい、みたいなことを書いておいででしたし、発言通り、彼の女性キャラの描写は本当に異次元です。

この作品も、名前のついている女子キャラは、ほぼ何かしら、どうかしている(賛辞)感じです。



作品要約

女子主人公もの。

CO2取引が絡んだ経済ものの皮をかぶった、日本神話風味のドラマチックSF。序盤、真面目そうなんですけど、中盤にはすっかり魑魅魍魎と呪術が入り乱れて大変カオスになります。

日本ファンタジーノベル大賞出身作家ということもあり、ストーリー展開が無茶めなのに、有無を言わせない引力があります。

この作者さんは、作風をジェットコースターと表現されることもありますが、まさにそれ。情勢も二転三転して、最後まで怒涛。

とにかく変人ばかり出てきます。

超高性能コンピュータに侵入するために、自分の神経回路と直接つないで暗号をクリアする女医とか、高さ三千メートルから落ちても生きている完璧な美を持つ女とか、よみがえったミイラの古代王とか。もうやりたい放題。

アニメ化・マンガ化もされています。

そういう激しい展開が好きな人におすすめ。

百合的な説明

この話には、涼子小夜子というサブキャラが出てきます。

涼子はいわゆる女王様系。何をしても人並み以上にできてしまう。性格はドS。

小夜子は陰キャの優等生。

小夜子の唯一の自慢である頭の良さを奪ってやろうと、涼子はあらゆる方法で小夜子の人生に絡んで、しつこくちょっかいを出してくる。

別に涼子は小夜子のことが憎いわけではないんですよ。ただ、涼子の好意=悪意というか。その毒っ気のある執着心が、まさに一種の百合。

上記のシーンは『シャングリ・ラ』において、後半のほんの一部分なのですが、印象深い場面です。





『魔法少女育成計画』

※TS要素があります。

漫画化・アニメ化もされた作品。ラノベです。

作品要約

魔法少女によるデスゲーム。

シリーズ化されていますが、1巻が一番おすすめ。これは今回紹介する殺伐百合の中で一番、ノーマルで、とっつきやすい殺伐百合じゃないかと思います。

百合的な説明

挿絵がかわいいのに話がエグい系の小説が好きな方には、特に刺さるかなという印象。

登場人物が多めなのですが、一人一人のキャラクター設定がしっかりしているので、混乱せずに読み進められます。

どんでん返しにつぐどんでん返しで、最後に残るのが誰なのか読めない、クオリティの高いサスペンスです。

TS要素があるのですが、主人公の女の子が成長するために必要なエピソードだったという印象です。お遊びで入れてるわけじゃないというか。

メディアミックスもされた小説なのですが、ちょっと1巻は手に入りにくいようです。ですので、アニメ版のDVDを貼っておきます。



トレイル・トゥ・スターライト

百合文芸誌『零合』の2巻に収録されている小説。

作品要約

アイドル×ダークなお仕事物(まとめるのが難しい)。

ある大きな事件を起こして北海道にいられなくなった夏織が、東京へやってきてシャルという少女に出会う。二人はアイドルユニットとして活躍する。ただその裏ではダークな仕事も請け負う感じの殺伐百合。

念のためお伝えしておくと、この話自体が、相当ダークです。クライムノベル系に耐性のない人は、やや覚悟が必要です。

夏織を初め、登場人物たちの生きざまが、相当ハードボイルドでクール。決断力と行動力があり、それでいて諦念に満ちている夏織は魅力的。『零合』の3巻に続く模様。

百合的な説明

殴り合って愛を確かめあう感じのハードさがあります。

お互いに好きなのに殴り殴られ、愛情表現が特殊です。愛と呼んでいいのか、別の感情なのか、線引きが難しいです。そういうのが納得いかない人は向いていないのかもしれないのですが、ハマる人はハマるかも。現在の商業誌では、こういう百合は貴重かも、という印象。



・(参考)百合ではないけれども女子主人公作品の記事。少女小説系。



まとめ

他におすすめ百合作品があったら、こちらこそ教えてください。

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