ようこそ創作沼へ

小説、イラスト創作に役立つ情報を発信。
小説賞下読み経験者に、小説を読んで感想を書いて欲しい、記事作成して欲しい、など、ライティング系のご依頼、承ります。

詳細はこちら

『町内会死者蘇生事件』あらすじ・感想・どういう人におすすめ?

『町内会死者蘇生事件』の良さ記事アイキャッチ 創作全般

※これは、『町内会死者蘇生事件』が面白かったので、これから読もうかなと思っている人向けに、個人的な所感などをまとめた記事です。

『町内会死者蘇生事件』を本屋で表紙を見たことがある人は、

「あの表紙が黒っぽくて、インパクト強めなタッチの絵の本だな」

と頭に浮かぶかもしれません。

これ書いている人も、表紙がSNSで流れてきて、「イラストすげえな……」と、思っているうちに、なんとなくレジに向かってしまった流れです。

そういうわけで、まだ読もうかどうしようか迷っている人向けに、記事を書いてみました。

紹介記事という特性上、中盤くらいまでのネタバレがあります。なおこれ書いている人は、ミステリ初心者です。

『町内会死者蘇生事件』とは

2025/5/28に新潮文庫nexから発売された、異色のミステリです。

この1冊で完結しています。

作者は五条紀夫(ゴジョウ・ノリオ)さん。

新潮ミステリー大賞最終候補となった『クローズドサスペンスヘブン』でデビューされたそう(新潮社のHPより)。

他の著作には、『殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス』、『私はチクワに殺されます』などがあります。

『町内会死者蘇生事件』ざっくりあらすじ

信津(しなづ)町を支配している信津寺の住職・長谷部権造は、若者たちにはとにかく評判が悪い。

長年の恨みを募らせた、健康(たけやす)・昇太・由佳里の三人は、とうとう権造を殺すことに。

計画は成功。町に新しい朝が来たと思いきや、権造はなぜか普通に次の日も生きていた

ちゃんと死んだはずなのになぜ?

と、混乱した三人が調べていくと、信津寺に伝わる魂玉という二個の石が、死者の蘇生に関わっているという事実に突き当たる。

三人はこの石をうまく使って、今度こそ権造を亡き者にしようとするのだが……

というような話です。

ざっくりいうと、魂玉によって、「死」を他者に移し替えていくゲームという感じで、最終的に死が誰にもたらされるかが、ひとつの見所かなと思います。


この本ならではの良さ3つ

表紙のインパクトがすごい

新潮文庫nexレーベルの表紙は、おしゃれで青春っぽい、さらっとしたイラストが比較的多いです。

そんな中、この、『町内会死者蘇生事件』の劇画調ともいえるクラシカルなイラストはあきらかに異彩を放っており、それでいて作品内容に非常にマッチしています。

このイラストを手掛けたのは、国内外で活躍されているイラストレーター・サイトウユウスケ氏です。(HPこちら

なお、五条さんのデビュー作である、新潮ミステリー大賞最終候補となった『クローズドサスペンスヘブン』の表紙も、同じイラストレーターです。それぞれ絵の雰囲気が全然違うので、驚きです。

・『クローズドサスペンスヘブン』の表紙はこんな感じです↓

ミステリなのだが、ミステリを抜いてもたぶん楽しい

最近はかなり減った印象ですが、ミステリジャンルだと、謎解きがメインで、ストーリーはそこまで盛り上がらない……。という作品もあり、それでミステリを敬遠する人もいるかと思います。

しかし、『町内会死者蘇生事件』は、ミステリ的な驚きはもちろん押さえつつ、それ以外にも、読者を飽きさせない仕掛けが用意されていて、読書中、高揚感が持続しやすいです。

この作品を面白くしている仕掛けのひとつに、転調が多い点が上げられます。

この作品は基本的に、魂玉のルールに基づいて、ロジカルに人が死んだり生き返ったりします。

なぜ人が蘇生するか、どうやって蘇生させるか? を突き止める辺りまでは、ミステリみとコメディみが強い印象があります。

しかし、その後、魂玉のルールを主人公の健康が理解すると、今度はそのルールを利用して攻撃に転じます。

自分の命すら駒として使っていく健康のマキャベリストぶりは、さながら新世界の神になるタイプの週刊少年漫画の名作を彷彿とさせます。

このパートではアクションもあり、ジュブナイル的なワクワク感が強くなります。

そのまま異能(?)アクションものとして着地するのかと思って読み進めると、また転調。

信津町の過去の凄絶な出来事と魂玉の来歴が明かされ、一転シリアスなヒューマンドラマに。最後は斜め上の感動が用意されています。

予想を裏切られる展開が多く、結末がかなり最後のほうまで読めなかったです。ラストは意外な結末ですが、納得感もありました。



人物関係とキャラクターに裏表がある面白さ

この作品は、メインの人物にけっこう裏表があり、人間としての振れ幅が大きい点が読んでいて楽しいです。

たとえば、主人公サイド(とくに健康)は、序盤は正義漢っぽいのですが、魂玉が絡んでくると、だんだん性格が極端になっていくので、どうなってしまうのか……とハラハラします。

敵方である権造サイドも含めて、置かれている状況によって人はかなり変わる、ということが、けっこう容赦なく描かれている印象


『町内会死者蘇生事件』はこういう人におすすめ

実際に読んでみて、以下のようなニーズのある人に向いていそう、と感じました(主観)。

  • 変わった設定のミステリが読みたい人
  • 「シリーズものはハードルが高いので、1冊完結のミステリが読みたい」と思っている人
  • 多少の残酷描写が許容できる人(少しですが拷問シーンがあるため)
  • 登場人物が高頻度で生と死を行き来することに対して、道徳的に怒ったりしない人


まとめ

ミステリ(作り話)に道徳を強く持ち込むタイプの人でなければ、楽しみやすい作品です。

1冊で満足感を得たい人には、おすすめのミステリだと個人的には思いました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました